空調設計では、外気・室内の条件と負荷から、混合空気の状態、吹出し空気の温度・湿度などを空気線図上で一貫して追っていくことが重要です。
この記事では、入門編で紹介した基礎を前提に、冷房運転(冷却除湿) に焦点を当て、以下の順で空気線図上のプロット手順を具体的な数値例で解説します。
外気と室内の 2 点を空気線図にプロットする
→ 以降の混合・吹出し・コイル出口の基準となる
外気量と還気量の比から混合空気を算出し、空気線図上にプロットする
→ コイル入口の状態が決まる
顕熱と風量から吹出し温度差を求める
→ 吹出し乾球温度が決まる
顕熱と全熱から SHF を求める
→ 吹出し空気の状態点を空気線図上で決めるための傾きが決まる
室内点と SHF・吹出し温度から吹出し空気をプロットする
→ 供給空気条件が定まる
吹出しから絶対湿度一定で左へ進み、飽和付近の点をコイル出口とする
→ コイル出口温度・湿度が決まる
【補足】
この【補足】は、この空気線図プロット作業の位置づけの説明です。
本筋とは関係ないため、読み飛ばして差し支えありません。
設計の実務と空気線図の解説ついて
この空気線図上でのプロット作業は、「空調機を選定するプロセス」そのものではなく、決まった条件(負荷や風量)において「空気がどのように変化するか」を可視化・確認している作業です。
実務の設計
負荷を処理するために、まず目標の「吹出温度差(Δt)」を決め、そこから必要な「風量」を算出します。
一般的な「設計標準値」から決める
日本の一般的な空調設計(事務所ビルなど)では、経験値に基づいた以下の数値が標準として使われます。
この範囲に収める理由は、以下の制約があるからです。
決める際の「制約条件」(なぜこの数値なのか)
- 結露とコールドドラフト(冷房時)
-
吹出温度を低くしすぎると(例えば温度差 20℃ など)、吹き出し口(アネモ等)がキンキンに冷えて結露してしまいます。また、冷たすぎる風が直接人に当たると不快感(コールドドラフト)を与えるため、下限は自ずと決まってきます。
- 搬送動力の経済性
-
温度差を小さくしすぎる(例えば温度差 5℃ など)と、熱を運ぶために膨大な風量が必要になります。すると、ダクトが巨大になり、ファンを回す電気代(搬送動力)が跳ね上がってしまいます。
- コイルの除湿能力
-
冷房の場合、空気を冷やす過程で「除湿」も行います。吹出温度を一定以下(通常 16℃ 以下程度)まで下げないと、空気中の水分が十分に取れず、部屋がジメジメしてしまいます。
空気線図の解説
室内状態と風量が分かっている前提で、その結果として「吹出温度が何度になるか(=状態点がどこに来るか)」を追いかける手順で説明されることが一般的です。
つまり、図表の上では「風量が先」に見えますが、実際の設計では「温度差の決定」が設計の出発点となります。
設計のフロー(実務的な流れ)
実際には、以下のような手順で「仮決め」と「チェック」を繰り返します。
「今回は一般的なオフィスだから、冷房吹出温度差は 12℃ で計算しよう」と決める。
風量 V = Q / (C_p × ρ × Δt) を計算する。
出てきた風量で、部屋の「換気回数」が十分か?(少なすぎないか)
ダクトサイズが天井裏に収まるか?
もし風量が多すぎてダクトが入らないなら、温度差をもう少し広げて(例えば 14℃ にして)風量を減らす、といった調整を行います。
※この記事内でも使用しており、今回の計算内容をそのまま使えるExcelテンプレートも用意しています。
ぜひ以下の記事もご確認ください。

前提条件とケース設定
典型的なオフィス空調の一例として、次の条件を想定します。
- 外気: 乾球温度 35℃、相対湿度 60%
- 室内: 乾球温度 26℃、相対湿度 50%
- 空調風量(吹出し風量): 25,000 m³/h
- 外気量: 20,000 m³/h
- 還気量: 25,000 − 20,000 = 5,000 m³/h
- 室内顕熱負荷: 84 kW
- 室内全熱負荷: 120 kW
空気線図は、入門記事と同様に 標準大気圧(101.3 kPa) を前提とします。
STEP 1:外気・室内空気のプロット

空調機と屋内周りの冷房運転(冷却除湿) 時空気状態に焦点を当て解説を進めていきます。
まずは、空気線図上に、外気と室内空気の 2 点をプロットします。
外気: 乾球温度 35℃ の縦線と、相対湿度 60% の曲線の交点
室内: 乾球温度 26℃ の縦線と、相対湿度 50% の曲線の交点
入門記事で触れたとおり、乾球温度と相対湿度という独立した 2 項目が分かれば、絶対湿度・比エンタルピー・湿球温度などは空気線図から読み取れます。
この 2 点が、以降の混合空気・吹出し空気・コイル出口を決めるときの基準になります。

STEP 2:ミキシング空気の算出・プロット

外気と還気が混合した空気(ミキシング空気)が、冷却コイルの入口に入ります。
混合空気の状態は、外気量と還気量の比で、外気状態点と室内(還気)状態点の間の線分上にあります。
体積流量比で近似する場合、混合空気の乾球温度 t_m と絶対湿度 x_m は、
t_m = (V_OA × t_OA + V_RA × t_RA) / (V_OA + V_RA)
x_m = (V_OA × x_OA + V_RA × x_RA) / (V_OA + V_RA)
で求められます。
条件
V_OA:外気量 20,000 m³/h
V_RA:還気量 5,000 m³/h
t_OA, x_OA:乾球温度 35℃、相対湿度 60%
t_RA, x_RA:乾球温度 26℃、相対湿度 50%
なので、
t_m = (20,000 × 35 + 5,000 × 26) / (20,000 + 5,000)= 33.2℃
x_m = (20,000 × 60 + 5,000 × 50) / (20,000 + 5,000)= 58%
空気線図上では、外気点と室内点を結ぶ直線上に混合空気点があり、外気量 : 還気量 = 20,000 : 5,000 = 4 : 1 の比で内分する点が混合空気の状態点です。
(還気に近い側から 4:1 で外気側に寄った点、と考えると分かりやすいです。)
計算で t_m と x_m を求めてから空気線図上にプロットしても、あるいは「外気‐室内」を 4:1 に内分する点としてプロットしても同じになります。

STEP 3:吹き出し温度差の算出

室内顕熱負荷 Q_s と吹出し風量 V から、室内と吹出しの乾球温度差 Δt を求めます。
Q_s = 1.2 × Δt × (V / 3600)
1.2:空気密度の近似値(kg/m³)
V/3600:風量 m³/h を m³/s に換算したもの
今回は、
条件
Q_s = 84 kW
V = 25,000 m³/h
なので、
84 = 1.2 × Δt × 25,000 / 3.6 / 1000
→Δt = 10.08 ≒ 10℃
となります。
吹出し乾球温度は、室内温度からこの差を引いて、
吹出し乾球温度: 26 − 10 = 16℃
と決まります。
しかしまだ湿度はいくつになるか、わからない状態です。

STEP 4:SHF の算出

顕熱比 SHF(Sensible Heat Factor)は、室内負荷のうち顕熱が占める割合です。
SHF = 顕熱/全熱 = Q_s / Q_t
今回は、
条件
顕熱 84 kW
全熱 120 kW
なので、
SHF = 84 / 120 = 0.70
となります。
この SHF の値が、空気線図上で「室内状態から吹出し状態へのプロセス線」の傾き(SHF プロトラクタで読む傾き)に対応します。

STEP 5:吹出し空気のプロット

室内状態点と、STEP 3 で求めた吹出し乾球温度 16℃、STEP 4 で求めた SHF=0.70 を使って、空気線図上に吹出し空気の状態点をプロットします。
手順は次のとおりです。
- 室内状態点(26℃, 50%)を空気線図上に取る(STEP 1 で既にプロット済み)
- その点から、SHF=0.70 の傾きを持つ直線を引く(SHF プロトラクタを使用)
- その直線と 乾球温度 16℃ の縦線との交点を求める→ この交点が吹出し空気の状態点
よって、
吹出し空気状態: 16℃, 70% 付近
となります。
この状態点が、「室内の顕熱・潜熱負荷を、この吹出し空気で処理する」ための供給空気条件です。

STEP 6:コイル出口温度の算出・プロット

冷房時には、冷却コイルで空気が露点以下まで冷やされることで結露が生じ、除湿されます。
実務では、コイル出口の相対湿度を 100% に近い高湿度(例:90%~95%RH 前後)とみなして設計することが多くあります。
その状態を今回は相対湿度:90%と設定します。
吹出し空気状態点(16℃, 70%)が分かっているとき、コイル出口は次のように考えます。
コイル出口から吹出しまででは、ファン発熱やダクトでの熱取得により温度だけが上昇し、絶対湿度はほぼ変わらないとみなせるため、
- 吹出し空気状態点から、絶対湿度一定の水平線に沿って左方向(低温側)へ進む
- 相対湿度 90% の曲線との交点を、コイル出口空気の状態点とする
空気線図上でこの交点を読むと、
コイル出口空気: 12℃, 90%
のようになります。
つまり、コイル出口温度はおおよそ 12℃ と求まります。

イメージとしては、
- コイル出口で 12℃・約 90%RH まで冷却除湿された空気が、
- ファン・ダクトで温度だけ 16℃ まで上がり、
- 吹出し空気(16℃, 70% 付近)として室内に供給される
という流れです。
一連の空気線図のプロットは以上となります。
空気線図を用いることで、空調機周りの空気の状態を確認することができ、適切な計画となっているかの判断が可能となります。
おまけ:冷却コイル能力と冷却水の計算
ここまでで空気線図上にコイル入口(混合空気)とコイル出口の 2 点が決まっています。
この 2 点の比エンタルピー差 Δh と風量からコイルで除去する熱量(コイル能力)を求め、さらに必要な冷却水量につなげる考え方をまとめます。
コイル能力と冷却水量まで設定できれば、空調機などの選定が可能となります。
コイル能力
コイル入口空気とコイル出口空気の比エンタルピーを、空気線図上でそれぞれ h_入口、h_出口 と読むと、コイルで除去する熱量 Q_coil は次式で概算できます。
Q_coil = (V / 3600) × 1.2 × (h_入口 − h_出口)
V:吹出し風量(m³/h)
1.2:空気密度の近似値(kg/m³)
単位は kW(V を m³/h、h を kJ/kg(DA) で読む場合)
今回は、
条件
h_入口:81.2 kJ/kg (空気線図より読み取り)
h_出口:36.1 kJ/kg (空気線図より読み取り)
風量:25,000 m³/h
なので、
Q_coil ≒ (25,000 / 3600) × 1.2 × (81.2-36.1) ≒ 376 kW
と計算することができます。
必要な冷却水量
コイル能力 Q_coil(kW)を冷水が受け持つとします。冷水の出入口温度差を Δt_w(℃)(例:5℃、8℃など)とすると、必要な冷水流量 L(m³/h)は、
L(m³/h)≒ Q_coil(kW) / 4.19 / Δt_w(℃)
水の比熱:4.19
となります。
今回の設計出入口温度差を8℃とした場合、
条件
Q_coil:376 kW
Δt_w:8 ℃
となるので、
L(m³/h)≒ 376 / 4.19 / 8 ≒ 11.2 m³/h
で求められます。
Q_coil と冷水温度差が分かれば、必要な冷水量の目安が得られ、チラー(冷凍機)の容量やポンプ選定の検討へつなげることができます。
まとめ
本記事では、冷房運転を例に、空気線図上のプロットを次の順で整理しました。
外気と室内の 2 点を空気線図にプロットする
→ 以降の混合・吹出し・コイル出口の基準となる
外気量と還気量の比から混合空気を算出し、空気線図上にプロットする
→ コイル入口の状態が決まる
顕熱と風量から吹出し温度差を求める
→ 吹出し乾球温度が決まる
顕熱と全熱から SHF を求める
→ 吹出し空気の状態点を空気線図上で決めるための傾きが決まる
室内点と SHF・吹出し温度から吹出し空気をプロットする
→ 供給空気条件が定まる
吹出しから絶対湿度一定で左へ進み、飽和付近の点をコイル出口とする
→ コイル出口温度・湿度が決まる
入門記事が「空気線図で 1 点の状態を読む」ための基礎だとすれば、本記事は「外気・室内 → 混合 → 吹出し → コイル出口」というプロセスを、点と線で空気線図上に描いていく実践編です。
この流れを身につけておくと、冷房時の吹出し条件とコイル出口状態を、設計条件に合わせて一貫して追いやすくなります。
※この記事内でも使用しており、今回の計算内容をそのまま使えるExcelテンプレートも用意しています。
ぜひ以下の記事もご確認ください。

本記事は簡単に計算方法をまとめています。
以下の書籍により詳しい内容が記載されています。
持っていない方は購入をおススメします。
本記事が皆さんの実務や資格勉強の参考になれば幸いです。
» 参考:建築設備士に合格するためのコツと勉強方法【学科は独学、製図は講習会で合格です】
» 参考:一級建築士試験の資格学校4選について解説【おすすめはスタディングとTACです】
» 参考:設備設計一級建築士の修了考査通過に向けた学習方法を解説【過去問を入手しよう】
以上、空気線図の使い方(実践編)|冷房時の空調計画の求め方でした。





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