自然排煙(排煙窓)の有窓判定・必要有効開口面積・配置の決め方|実務ガイド

自然排煙(排煙窓)の成否判定と必要面積の算出、配置要件を、実務で迷わず決めるために整理しました。

機械排煙の記事と同じ流れで、要点→手順→計算→配置→緩和の順に解説します。

結論

自然排煙は、1/50の有効開口、天井または0.8 m以内の高さ条件、そして30 m以内の配置という3点を確実に満たすことが基本です。

以下のルールに準じて計画が必要です。

  1. 有窓判定: 有効開口の合計が床面積の1/50以上であることが前提です。
    開放できる部分は、天井または天井から下方0.8 m以内の位置に必要です。
  2. 天井高さが3 m以上の場合は、H12建設省告示1436号第3号の条件を満たせば位置要件等に緩和があります。
  3. 防煙区画500 m²以内で設定し、区画内の任意の点から水平距離30 m以内に排煙口が来るように配置します。
  4. 必要有効開口は S_eff_req[m²] = A/50。カタログ選定は有効開口率 φ を考慮して S_nom = S_eff_req/φ を満たす窓・ダンパーを選びます。(記号: A=床面積[m²]、S_eff_req=必要有効開口面積[m²]、S_nom=見かけ面積[m²]、φ=有効開口率[-])

目次

最短手順

STEP
適用可否の確認
  • 対象空間が自然排煙で成立するか(用途・規模・外壁接続)を確認します。
STEP
防煙区画の設定
  • 防煙区画を500 m²以内で区切り、排煙口の候補位置を把握します。
STEP
有窓判定の計算
  • S_eff_req = A/50 を計算し、候補窓の有効開口合計がこれを満たすか確認します。
STEP
配置条件の調整
  • 高さ条件(天井または0.8 m以内)と、水平距離30 m以内の配置を満たすように調整します。
STEP
緩和条件の検討
  • 天井高さが3 m以上の場合は、告示1436第3号の緩和適用可否を検討します。
STEP
寸法の決定
  • φが分かっているカタログがあれば S_nom = S_eff_req/φ で寸法候補を見積り、複数窓の組合せで充足させます。

有窓判定と必要有効開口の計算

自然排煙の成立には、開放できる部分の有効開口面積の合計が、床面積の1/50以上であることが必要です。必要有効開口は次式で求めます。

計算式

必要有効開口: S_eff_req[m²] = A/50

見かけ面積(カタログ選定): S_nom[m²] = S_eff_req/φ

    有効開口率 φ は、窓の形式(上げ下げ、押出し、回転)、開放角度、格子や網戸の有無などで変わるため、カタログの「有効開口面積」または「有効開口率」を参照してください。

    表記が有効開口面積であれば、その合計が S_eff_req を満たすかを直接確認できます。

    計算例

    条件
    床面積 A = 300 m² の居室

    計算結果
    必要有効開口
    : S_eff_req = 300/50 = 6.0 m²
    見かけ面積: φ=0.60 の窓を使うなら、S_nom = 6.0/0.60 = 10.0 m²
    例えば 2.0×2.5 m を2枚配置すると、S_nom合計が10.0 m²となり、条件を満たします。
    有効開口面積がカタログに明示されている場合は、その値で判定してください。


    配置・高さの要件

    排煙口(開放部)は、天井または天井から0.8 m以内の位置に設けます。

    さらに、防煙区画内の任意の点から水平距離30 m以内に排煙口が来るように配置してください。

    梁下が50 cm以上下がる部分は防煙垂れ壁として扱われることがあるため、区画形状に注意が必要です。


    天井高さ3 m以上の緩和(H12告示1436第3号)

    天井高さが3 m以上の空間については、次の条件を満たす場合に、排煙口の位置などに関する緩和が適用されます。

    要点は、排煙設備の基準(令126条の3の各号)に適合しつつ、排煙口が床から2.1 m以上で、かつ天井高さの1/2以上の高さにある壁部分に設けられていること、さらに当該防煙区画の防煙壁下端より上方にあること、排煙上有効な構造であることなどです。

    詳細は条文に従い、図面での高さ関係を明確に示してください。


    仕様・選定のポイント

    • 有効開口率 φ はメーカー・機種で差が大きいため、可能な限り「有効開口面積」が明示されたカタログを使うと誤差が減ります。
    • 複数窓で充足する場合は、各窓の開閉方向と開放角度の確保(干渉・ストッパー等)に注意します。
    • 手動開放装置(操作ワイヤ・レバー等)の操作高さと表示、避難動線との干渉を事前確認します。
    • 法規の判断に地域条例・特定行政庁の運用が関与する場合があるため、事前協議で要件の解釈を合わせてください。

      注意事項とチェックのポイント

      以下はよくある誤りと是正のポイントです。

      • 誤り: 0.8 mの基準を「床から0.8 m」と誤読する → 正解: 天井から下方0.8 m以内
      • 誤り: S_eff と S_nom(見かけ面積)の混同 → 正解: カタログの「有効開口面積」表記を優先し、無い場合のみ φ を使って換算
      • 誤り: 30 mの水平距離判定が区画境界をまたいで測られている → 正解: 必ず防煙区画内基準で測定
      • 誤り: 窓の開放角度不足や干渉で、φが期待値を下回る
      FAQ
      有効開口率 φ が不明なときは?

      メーカーに問い合わせ、同型番の実測値または代表値を確認。なければ保守的に0.5~0.6程度で仮置きし、後で確定します。

      網戸や格子は有効開口に影響しますか?

      影響します。φが低下する場合が多く、カタログの注意書きを確認してください。

      自然排煙が成立しない場合は?

      機械排煙(ファン方式)へ切替。機械排煙の計算・選定は別記事を参照してください。

      以下は計画内容のチェックポイントです。

      • ✓ 防煙区画は500 m²以下で成立している
      • ✓ S_eff合計 ≥ A/50(有効開口面積で確認)
      • ✓ 開放部の高さが天井または0.8 m以内
      • ✓ 区画内の任意点から30 m以内に排煙口
      • ✓ 天井3 m以上の緩和の適用有無を整理し、図面に高さ寸法を明記

      まとめ

      自然排煙は、1/50の有効開口、天井または0.8 m以内の高さ条件、そして30 m以内の配置という3点を確実に満たすことが基本です。

      天井高さが3 m以上であれば告示1436第3号の緩和も検討し、カタログの有効開口面積(または有効開口率 φ)に基づいて、見かけ面積 S_nom を過不足なく選定します。

      複数窓の組合せでは、開放角度や操作性、表示の適合も忘れずに確認してください。

      根拠条文(抜粋)
      • 建築基準法 第35条(防災設備の技術的基準)
      • 建築基準法施行令 第116条の2(有窓判定:1/50、0.8 m)
      • 建築基準法施行令 第126条の2~3(排煙設備の基準)
      • H12 建設省告示1436号 第3号(天井高さ3 m以上の緩和)

      本記事が皆さんの実務や資格勉強の参考になれば幸いです。

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